最近のパキスタン音楽事情(ポップスも宗教歌も)

とは言っても、カッワーリーを含め、パキスタン音楽のCDに関しては、他のワールド音楽に比して簡単には手に入りにくいですよね。幸い、私はその後様々なパキスタン音楽に触れる機会を持て、ぼちぼちではありますが、現在その世界を開拓中です。
そんな中、魅力的な講座が日本・パキスタン協会により開かれました。(3月の話ですので、報告遅すぎです。)
和光大学で教鞭をとられ、南西アジアの文化を広範囲に渡って研究されている、村山和之先生を講師に迎えて行われた「最近のパキスタン音楽事情」。
この講座の構成を簡単に書きますと、
①隣国インドの映画に使用されたポップスやカッワーリーの楽曲。
②実力のあるグループ同士が凌ぎを削り合う魅力的なロックバンド界。
③バンド形式が多いと思われる(私の個人的な見解)パキスタン・ポップス・ロック界において、バンドという枠を飛び越えてカリスマ的な存在感を放つソロ歌手達。
④スーフィー音楽/カッワーリーや神秘主義の詩を巧みにポップスやロックに取り入れて、個性的な音楽を作り上げている若手の音楽家達。
そして、なんと言っても目玉となったのは、後半に紹介された宗教音楽の数々でした。こちらは映像によるご紹介でしたので、余計に印象深かったです。
①のインド映画音楽に使用されているというカテゴリーでは4つの楽曲が紹介されましたが、ここでは以前のパキスタン音楽の記事でもチラリと書いたShafqat Amanat Ali(FUZONのVo.)や、Atif Aslam(JALの元Vo.)が登場。アーティフ・アスラムは美男だということで、会場では大人気でした(いや、パキスタンポップス界は美男が多いと私は思うけどな)。いずれの歌手も透明感のある声が美しく、ボリウッド映画のロマンチックな場面で映えるだろうな~という美しい楽曲。また、インド人でありながらヌスラットの曲を多く歌っているというKailash Kherの宗教歌は、スクラッチ音をバックにカッワーリー風の楽曲が歌われ摩訶不思議な世界観を醸し出していました。カッワーリーは何もパキスタンだけではないという好例ですね。
③では、これまた以前もご紹介した、今回紅一点のHadiqa Kiani(パキスタン音楽界では女性の活躍はあまり見られないのでは、と今のところ感じています←あくまでも私個人の見解)。そして、楽曲もさることながら、エピソードが印象深かったAbrar ulHaq。彼は音楽活動により稼いだお金を病院建設や運営に使うため、よりいっそうみんながチャリティーの意味を込めCDを購入しているとのこと。この辺り、とてもイスラーム文化が根付いたパキスタンらしい音楽事情なんじゃないかしらと思って興味を持ちました。

そのうちのひとつは以前も書いたMekaal Hasan Band。ラジオでは、プログレ・フュージョン風の楽曲にスーフィー色の強いネイが乗り、カッワーリーの歌唱が被さるハイパーミクスチャーな素晴らしくかっこいい曲、「Andholan」が紹介されましたが、この日は、へヴィーなメタルサウンドが基調の「Ya Ali」。この曲に関しても以前書きましたので、そちらを読んでくださいね。
また、この日初めて聴いたOverloadもすごくかっこ良かった!このグループは、ドール(ダンマールで使用される大太鼓)をはじめ、パーカッションを主体としたリズムセッションが持ち味の独特なバンド。その後、村山先生のご厚意でCDを一枚聴く機会を持ちましたが、太鼓の連打が作り出すグルーヴを聴いていると、誰もが思わず踊りださずに居られないような気分になってくる。そして、そのループするリズムセッションが人々を陶酔境へ導く。まさにそれこそが、ダンマールの特徴。この日、紹介された「Mahi」という曲は、フュゾーンのシャフカト・アマーナト・アリーがヴォーカルで参加し、パーカッションの共演(狂宴?)というよりは、彼の透明感のある歌声が生きた、静かで瞑想的な(アンビエントな)世界観を持った楽曲でした。
パキスタンのロック・ミュージシャンの多くに共通して言えることのひとつは、そのインテリジェントな音作りではないかと思います。高等教育を受けたミュージシャンが多い点も無関係ではないでしょう。そして、構築された様式美の世界を持つにも関わらず、全ての楽曲からほとばしるように溢れ出す情熱や、哀愁感漂うメロディーも魅力のひとつ。そして何より、みんな歌がうま過ぎる!
・・・と、盛り上がったところで、この日の目玉とも言える様々な宗教歌について。ガザル、カーフィー、カッワーリーの3種が紹介されました。ガザルからはFarida Khanum。フランス映画「Pardesi(「L'etrange)」の出演シーンより映像が紹介されました。カーフィーに関しては女性歌手、Abida Parveenが、パンジャーブ地方の魂とも言える聖者ブッレーシャーの詩を歌った「tere ishq nachaya」という曲を歌うシーンが流れました。どちらの楽曲もとてもとても素晴らしかったはずなんですが、最後のカッワーリーの映像が強烈過ぎて、今となっては先のふたつの映像は、記憶からすっかり飛んでしまいました。あー、もったいない・・・
という、強烈なカッワーリーについてですが、村山先生は、2004年に来日したメヘル・アリー・シェール・アリーや去年来日したファイズ・アリー・ファイズの来日公演にも関わられたり、過去にパキスタン・インドでカッワーリーの映像を採取してこられたり、いくつかのCD音源の翻訳をなさったりと、何かとカッワーリーとの関わりが多い方です。今回見せていただいた映像は、この講座の直前まで調査に訪れてらしたラホールのダーター・ガンジ・バフシュ(聖者の名)廟のウルス(聖者の命日祭)にて採取された、撮りたてほやほやのカッワーリーの映像!しかも、去年来日したファイズ・アリー・ファイズを含む豪華3大(??)音楽家のもの。
このカッワーリーの映像、最初から最後までとにかく驚きと興奮に満ちた映像だったんですが、何がびっくりかって、あれですよ。聖者廟で(メヘフィレ・サマア:カッワーリーの集会:が行われるホールみたいな場所があるようでした)絶唱するカッワールたちの前を絶えずうろうろする参列者達、また素晴らしい演奏に対する賞賛として観客が投げる御捻りをワサワサと拾い集め、(聖者たちに触れることによって)浄化されたお金を、演奏中のカッワールたちにばら撒き続ける男。そして、彼らは、先生が撮影されるカメラの正面を絶えず行ったり来たりで、カメラを塞いでいる(笑)。
また、これらの宗教歌を深く理解したいと思うならば、神秘詩への理解も不可欠だと、強く強く感じました。何せ、カッワーリーがもたらしてくれる昂揚や恍惚感は、リズムや音階もさることながら、何より詩の意味内容や韻律を味わうことによるところが大きいはずですから。こんな映像を見せられた後だと余計にウルドゥー語やパンジャービー語の素養が自分にあれば、と悔やまれます。過去に学んだペルシャ語やヒンディー語(こちらはかじった程度ですけどね)の知識で、ウルドゥー語もなんとかならないものかしら?
また余談ですが、先に書いたOverloadもフィーチャーしたドール。村山先生によると、そのドールを扱う人であるドーリーと、カッワールが同じ場で共演するということは、現地ではありえないそうなのですが、2004年に来日したメヘル・アリー・シェール・アリーのステージでは、それが実現したそうです。
今回の講座を聴いて、そんな貴重で熱狂的なステージを見逃したなんて悔やんでも悔やみきれないわと、改めて思ったのでした。メヘル・アリー・シェール・アリーのステージに関しては2004年の東京の夏のレポートがアリオンさんのサイトにありましたので、そちらにリンクを貼っておきます。ウルスやカッワーリーの用語にも言及されいてるので、分かりやすいかと思います。
尚、村山先生により集められたカッワーリーの映像、今回見れなくて残念だったわ~という方。GW中にUPLINKで行われるGOLDEN WORLD WEEK 2007で、カッワーリーを含めたスーフィー音楽の特集がありますよ!10年前に村山先生が現地で撮られた映像を含め、さらに濃い~ヴァージョンのカッワーリー映像がたっぷり楽しめるのではと思います。
こちらの特集、サラーム海上さんのお馴染み、エキゾ夢紀行によるもの。
サラームさんが撮られたグナワやメヴラーナの旋回舞踊の映像もあるということで、スーフィー音楽好きにはたまならい企画ですね!
以下、UPLINKのサイトより引用
世界の音楽の今をめぐる黄金週間
期間:5/1(火)~5/14(月)
■イベント(5) 『サラーム海上のエキゾ夢紀行 ─美しきスーフィー音楽の謎』
日時:5/6(日)開場18:30/開演19:00
料金:¥1,800(1ドリンク付)
出演:サラーム海上(よろずエキゾ風物ライター)+村山和之(和光大学)
「ここではない何処か=エキゾなるもの」を求めて、世界中で取材旅行を続けるサラーム海上さんによる、旅の報告イベント。今回は和光大学の村山和之さんをゲストにお招きして、カッワーリーをはじめとする貴重な音楽映像を中心に、メブラナ教団のセマー、そしてグナワといったスーフィー音楽をたっぷり紹介します!
パキスタン・ポップスについても、きっとまた今後もこういった機会がもたれることでしょう。
いや、またこういう機会があることを強く願います(笑)。
この記事へのコメント
以上、最近はあまりCDを買っていない、ころんでございました。
わたしは地方在住のため、ワールド系のイベントは行きたくても行けないんですよね(往復の交通費だけで3万円以上かかるし)・・・。
ガザル、カーフィー、カッワーリー、CDが売っていたら一度聴いてみたいです。
アブラールが稼いだお金を病院建設や運営に使うと言うのは知りませんでした。
あと、シェへザド・ロイは経済的に恵まれない子供を支援しているそうです。
>パキスタン音楽界では女性の活躍はあまり見られない
確かにそうですよね、シャージャ・マンズールのリミックス盤には幻滅しました・・・。
ほか、パキスタンの女性歌手と言えば、Fariha Pervez しか知らないです(以前に書いておくのを忘れてました)。http://www.youtube.com/watch?v=Jant8xP4Ahc
ころんさんのような多岐ジャンルに渡ってすごいリスナー歴の方でさえ、パキスタンは殆ど未開の地ですか・・・。とはおっしゃるものの、私よりは絶対お詳しいはずですが。もっと簡単に音源が手に入るようになるといいですよね。
Mekaal Hasan Band、とにかくかっこいいです!押しまくります!
以上、ころんさん以上に(←多分)最近CDを買っていないellyより
Fariha Pervez 、さっそく聴きました。パキスタンの歌手の中ではわりとインドっぽい歌いかたなのかな?と思ったんですが如何でしょう?
・・・と思ったら、ボリウッドによく曲が使われているようですね?美人だし、要注目です!いつも様々な情報をありがとうございます!
それと、もしよろしかったら、古典音楽(カッワーリーでもガザルでもカーフィーでも)の「優良」視聴サイトがあれば、また教えて頂けないでしょうか?
すいません、お返事が遅くなりました。家のパソコンをネットに繋いでいなくて、連休中は全くネットを見れなかったもので・・・。ネットは会社のパソでやってるんです。家のパソをネットに繋いでいないぐらいですので、今のところはブログはやっておりません。しかし現在ブログを開設してみようかと画策中ではあります。まだどうなるかわかりませんが。
了解いたしました。
もし、今後ブログ開設された際には、ぜひ
お知らせくださいね。
突然のご連絡大変失礼致します。Bridgeの坂本と申します。
弊社は旅行系サービスと広告代理事業を行う会社です。(http://www.bridge-world.jp/)
ブログ記事を見てご連絡させて頂きました。
とある旅行系サービスの広告掲載についてご相談させて頂きのでご興味ございましたら下記までメール頂けましたら幸いです。
sakamoto_rie@bridge-world.jp
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