ETHNOMANIA

アクセスカウンタ

zoom RSS 寒波とアーシュラー

<<   作成日時 : 2008/01/21 04:56   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 11

画像ヤズドに続き、また一週間ほど旅に出ていました。イランのみならずイラクをも襲った寒波に飲み込まれ、予定の飛行機が5時間近くも遅れるなどのハプニングもありつつ、無事旅を終えテヘランに戻りました。今回の旅は、「イランと言えば・・・」というオーソドックスな行き先に絞り込みました。エスファハーンとシーラーズ、そしてシーラーズの周りに点在する古代遺跡群。エスファハーンでも雪に祟られ、凍えながらの市内観光を決行。それでもモスクや広場を彩る雪景色は圧巻でした。

旅の話はまた後ほど書いていきますが、今回は遅くなりすぎないうちに「アーシュラー」のことを写真を中心に綴ろうと思います。
アーシュラーとは、イスラーム暦の1月(モハッラム月)第10日に、シーア派第3代イマーム・ホセインのカルバラー(現在はイラクの都市。シーア派の聖地)での殉教を悼んで行われる宗教的行事。アーシュラーという言葉はアラビア語の数字10に相当する単語、「アシャラ」から来ています。今年は、おととい土曜日がそのアーシュラーの日にあたりました。
画像


シーア派(12イマーム派)が国教のイランでは、ホセインの追悼行事が大々的に行われます。ホセインはシーア派第1代イマーム・アリの息子で、預言者ムハンマドの孫。12イマーム派では12人のイマーム全てが殉教の憂き目に逢ったということになっていますが(正確には12人目は「お隠れ」の状態)、中でもこのホセインは、圧制者に背き、最も悲劇的な最後を迎えたと見做されている人物です。

アーシュラーの日、人々は儀礼を通じて、ホセインの屈辱・苦しみ・死を疑似体験します。
アーシュラーの行事自体は、モハッラム月が始まると既に様々な形で始まるようです。ヤズドやエスファハーンに旅行した際には、街角の至るところでアーシュラーの殉教劇用の衣装や儀式用の鎖・大太鼓が売られ、路地の軒下には「ホセイン」の文字がプリントされた赤・緑・黒の旗が翻っていました。
画像

数々のアーシュラーの儀礼のうち最たるものが、太鼓や朗誦に合わせ黒装束の男性集団が鎖で胸や背中を打ちながら通りを練り歩く「ダステ」と呼ばれるもの。派手な色の旗を巻きつけられた山車が登場することもあります。テレビでもよく見かけるアーシュラーのシーンですね。
鎖を使わず手で胸を打つだけのこともありますが、裸の背中に鎖を打ち下ろし、背中が血まみれになっている陶酔しきった表情の人々の姿は、あまりにも鮮烈ですよね。実際、ダステで使われる鎖を手に取ってみると、けっこうな重さなのですが、この鎖を何十分にも渡り自らの身体に打ち続けるわけですから、宗教的陶酔無しでは不可能な行だと思います。

しかし、私にとって初体験のアーシュラーは、見学した場所がテヘラン北部の高級住宅街だったから、あるいは冬だから?もあってか、裸でこの行を行っている人はさすがに見かけませんでした。
それに、ホセインが殺害されたという10日の正午、モスク周辺でのダステではさすがに我が身を打つ人々の気合の入り方も違いましたが、それ以外では、日本の祭りで町内会の子どもたちが神輿担ぎに参加するような乗りがあちこちで見受けられました。これ、第一代イマーム・アリの殉教日のモスク詣ででも見られたことですけど(過去記事)。
画像


しかし、ダステが進む道に沿って次々に登場する、まだ身体から湯気を立ち上らせながら首を切られて横たわる生贄の羊や牛たちの姿には、やはり宗教的な熱狂・陶酔を感じさせられました。この日、いつも私が散歩する大通りでは、至る場所で鮮やかな鮮血が溝に向かって筋上に流れ、その上を靴が汚れるのも構わずに多くの人々が行き交い、道端が文字どおり血まみれの状態となっていたのです。
羊を屠るシーンは何度か見たことがありましたが、ダステの行進が一定の区間を進むごとに羊が犠牲として屠られて行く様子には、ムスリムならずとも日常を超越したある種の感覚を呼び覚まされました。
画像

それにホセインを悼む哀悼歌の響きには、嫌が応でも胸を打たれるものがありました。歌を歌うのは、いずれもその地域の喉自慢の男達。そんじょそこらの歌手より、イイ声・いい発声をしてましたよ!

また広場では、「カルバラーの悲劇」に纏わるターズィイエと呼ばれる殉教劇が行われていました。
この劇では、敵・味方に別れホセインの殉教のシーンを演じます。緑の衣装が味方。赤の衣装が敵。(赤はホセインの流れた血をも表す)これに哀悼のための黒装束が加わるとアーシュラーの3大シンボリックカラーとなります。
ターズィエは、ガージャール朝(1796〜1925)の時代に始まり、同朝の末期には、民衆蜂起や反政府デモと結びつき、隆盛を極めたそうです。

今回私が見たターズィイエでは、役者さんがみな老人の方々だったのですが、可笑しかったのが、演技のある部分に来ると突然語り部が登場して、「ホセインは疲れちゃったよ。みんながお捻りをくれないと続きはやらないよ」と言った台詞を大声で朗誦すること。劇の台詞の大部分はトランペットと小太鼓の音に合わせて行われる「朗誦」なのですが、「おねだり」の部分もしっかり歌になっているわけです。
そして物語の最後には、もちろんホセインは絶命するわけですが、ここでも語り部はお捻りを観客に要求します。「ああ!ホセインが死んでしまった。みなさん、どうぞお恵みを!」と言った具合。そして、その隣では、ホセイン以外の役者たちは自分の役目を終えて、衣装を脱ぎ、さっさと帰り支度を始めるのです(笑)。悲劇なのか喜劇なのかわからなくなる瞬間。トドメは、「皆さんにお恵みをもらったのでホセインは行き返りました」(笑)なんてパターンまで!実際、ホセイン役のおじいさんは、すっくと立ち上がり、何事もなかったかのようにその場を立ち去っていきました。いや〜、これには参った!
画像
期待していたような観客の感極まっって号泣する姿も、残念ながら見られませんでした。が、お捻りは順調に集まっていました(笑)。

さて、アーシュラーでは、ナズリーと呼ばれる「施し」が、あちこちで配られます。各家庭で作った料理を近所の人に配ったり、レストランが自発的に道行く人に食べ物を提供したり・・・。勿論、ナズリーの費用は政府も負担しているとのことですが、イスラームの慈悲の精神が現代にも生きていて、なんだかほっとさせられる習慣です。
画像


夜10時半頃には、大モスクの周囲でたくさんの蝋燭の火が灯リ始めました。
ホセインの死を忘れないため、またそれぞれの願いごとを静かに祈るために、人々は蝋燭の火を灯します。この蝋燭の儀式と昼間のダステの儀式。激しいまでの静と動のギャップが、とてもイランらしい。
モスクの周りには蝋燭売りがたくさん出現するのですが、心打たれたのは、たくさんの蝋燭を購入し、それを他の人にも分け与えていた人が多くいたこと。私も、一人の青年から蝋燭のお裾分けを貰い、小さな光りを灯しました。
その場に居たひとりの人に、どんな願い事をしたか話を伺うと、「病気で苦しんでいる全ての人が元気になりますように」という返事が。私が話しかけるまでずっと悪ふざけをしていた彼だったのですが、意外なほどに純粋な願いで、またもやほろっと来てしまった瞬間でした。イラン人の心の暖かさに胸を打たれるシーンは日常でもたくさんあるのですが、弱い蝋燭の炎が寄り集まってひとつの波を作っている、そんな神聖なシーンで発せられた言葉だっただけに、いつも以上に胸に染みましたよ。
画像


最後に。
今回シーラーズの旅に同行してくださった観光ガイドさんに、アーシュラーにまつわるルーミーの詩の一篇を教えてもらいました。
〜シーラーズの旅の途上、とあるエマームザーデ(聖者廟)の中で交わされた会話より〜
ある街を通りかかったルーミーが、偶然ダステの行進を見た。その行進の意味を知らなかったルーミーは、その中の一人に尋ねる。「どうして泣きながら行進しているのか」と。相手は驚いて答える。「アーシュラーを知らないのか」そして、ホセインの追悼行事であることをルーミーに告げる。するとルーミーは以下の詩篇で返答した。
「魂が(生という)牢獄から飛び立ったというのに、どうして服を引き裂き、手で(胸を)打つのか(悲しむのか)。」

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんわ。
3月にイランへ旅行に行くので検索してたら、こちらにたどり着きました。
アーシュラー凄いですね!生で見てみたいですが、羊さんを見るのはきついです・・・。

エスファハーン・シーラーズはどうでしたか?
私も再来月行く予定なので、旅行記楽しみにしています。
アーリーカープー宮殿の音楽室が工事中で入れないと聞いたので気になります。
Pandan
2008/01/21 22:53
「イランと言えば」どこ?と言われても、何も思い浮かばない無知なるころんでございます。
それにしてもアーシュラー、そういう行事があること自体を初めて知りましたが、私の理解の範囲を超えています。何故?と疑問符が付く行いが多々ありますが、それは異国の地に住む日本人が口を挟むことではないのでしょうね。
でも、アーシュラーという行事があるのを知ることが出来て、また一つ勉強になりました。ellyさんの記事はいつも本当に新鮮です。ありがとうございます。
ころん
2008/01/22 11:15
初めまして。イラン関係で検索して訪れてくださった方がいるのは、とても嬉しいです。未だ検索にかかるのは、殆ど日本にいた時の記事ばかりで。アーシュラーは、「ホンモノ」を私も見てみたいです。来年に賭けます。来年のアーシュラーは地方に行ってみようかなとも思ってます。
アーリーガープーの音楽室は、おっしゃるとおり残念ながら工事中です。いつまで続くかは分かりませんが、Pandanさんがいらっしゃる頃までに完了する見込みはないのではないかと思われます。
elly→Pandanさん
2008/01/23 00:50
音楽以外の記事にまでコメントを残してくださってありがとうございます。
「イランと言えば・・・」について。自分が知っていることだからと言って皆が知っているわけではないので、どこまで説明を入れるべきか、どういう書き方をしたら分かりやすいかという点で、実は記事を書く時いつも難しさを感じています。ただ、明らかにブログを始めた最初の頃に比べて、説明が不親切になってきたことを自分でも感じています。(例えば以前は楽器名などにも全て説明を入れていました)説明が減った理由のひとつは、当初に比べ自分と似たような感性や興味を持った読者の方が増えたからというのもありますが。でも、初心に帰って、全てが周知の事実ではないということを踏まえて文章を書いた方が、やはり良いんではないかと感じました。(ころんさん、ありがとう!)
イスラームの宗教儀礼、遠く離れた日本の文化からは想像できない点がたくさんありますよね。(いや、実際住んでみても結構謎だらけだったりしますが)自分が慣れ切ってしまったら新鮮さを与える記事が書けなくなりそうなので、バランスとしてはこれぐらいがちょうど良いのかもしれませんよね。
elly→ころんさん
2008/01/23 01:04
ありあがとうございます。
やっぱり工事中なのですね・・・。
工事中でも一部だけでも見学出来るのを祈ってみます。
とほほ・・・。
Pandan
2008/01/23 21:17
羊がぁ〜( ̄□ ̄;)!!
そういう習慣がまだ残っているのですね。「アーシュラー」全然知りませんでした。
ところでellyさんの写真に男の人が多いのは、女の人があまり外を出歩いていないからですか?それとも女の人をカメラで撮るのはあまり良くないと思われているからですか?(と、どこかで読んだ気がするのですが・・・)
wacky
2008/01/24 10:37
宗教的法悦があればこそなのでしょうが、羊のクビチョンパだけ見てしまうと衝撃的です。個人的には動物好きなもので、ちょっと辛いです。
因みにヘブライ語で10はエセルですから、やっぱり兄弟原語だとすぐ分かります。しかしアーシュラーは、日本人的には阿修羅とダブってしまいますね。
Homayun
URL
2008/01/24 12:58
アーリーガープー、オーケストラルーム以外は問題なく見学できますよ。とは言っても、メインの場所が観られなくては慰めの言葉にもなりませんが。
elly→Pandanさん
2008/01/29 21:24
イランでは羊を屠るシーンは、滅多に見られません。それこそ、このアーシュラーの時ぐらいなのでは。年末のイスラームの大祭の時にも、街中ではあまり見られなかったようですし。
女性の写真。実は今回赤ちゃんの写真を載せていますが、このお母さんから「私は写さないで」という条件で撮らせてもらいました。でも、イランでは女性からも撮影を拒否されることは滅多にないですよ。女性も普通に外に出ていますし。ただ、こういった宗教行事や公的な行事に参加するのはどうしても男性になってしまうので、「男率」が高い写真になるのかも。
アーシュラーは何せ「男祭り」ですし!
elly→wackyさん
2008/01/29 21:30
私も実は大の動物好きなので、「ダメ〜!!!」なはずのシーンなのですが、なぜかこういう場では平気だったりします。やはり宗教的法悦のなせる業でしょうか。なんとなくパッションが伝染している気がします。
ヘブライ語では10はエセルなのですね。
いや〜。しかしHomayunさんは、クレズマー音楽の知識のバックグラウンドとして、言語にまで精通されているのですね!さすがです。
elly→Homayunさん
2008/01/29 21:36
わ〜やっぱり、イランは寒そうだ。
きっと今年も寒いんでしょうね?
東京はまだ雪を見ません。
アーシュラ、いつか見たいと思いますが、又イランへ行かれる日は来るのでしょうか?私。
うふふ、過去の記事を又読むのも楽しいです。

2009/01/16 17:41

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文

Welcom Map

welcommap
Welcom Map
寒波とアーシュラー ETHNOMANIA/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる