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zoom RSS ロトフィ・ブシュナーク公演

<<   作成日時 : 2006/03/23 19:22   >>

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イランのお正月(21日)を挟み、そちらのことを先に書いているうちに、19日(日)に行ったロトフィ・ブシュナークلطفي بوشناقの公演の様子をお伝えするのがすっかり遅くなってしまいました。
このブログを訪れてくださっている方の中には、同じ公演を聴きに行かれた方もいらっしゃるのでは、と思います。もともとアラブの古典音楽や歌謡が大好きで、ロトフィ・ブシュナークのような重鎮の公演なら必ず聴かなきゃ!と、思って行かれた方もいらっしゃるでしょうし、ひょっとしたら私が以前、この公演のお知らせを書いたのをきっかけに、聴きに行かれた方もいらっしゃるかもしれません。
いずれにしても、彼の紡ぎだす素晴らしい音楽と声を耳にされた方が、改めてマアルーフ(アラブ・アンダルシア音楽*1のチュニジアに入ってからの名称)、ひいてはアラブ古典音楽全般の魅力に取り付かれてしまったことは間違いないでしょう。

とにかく当公演、ワンダフル!のひと言でした。←私らしくないレポの始まりですかね?
広い声域、美しい声、そしてアラブ音楽ならではかもしれませんが、詩までその場で作り出せる程の即興性や教養まで求められるアラブ音楽の世界で、現在最高峰とされる歌手の一人、ブシュナーク氏。加えて、彼には、観客を巧みに演奏に巻き込んでいくエンターテイナーとしての豊かな才能、アラブ世界の誰もが口ずさむことができるメロディーメーカーとしての才能、そして何よりアラブ古典音楽を世界に伝えるアラブ文化大使?としての才能をバランスよく兼ね備えていると言えるのではないでしょうか。そんな彼の魅力の全てをこの目に、耳に、収めることができたこと、そして初めて生で聴くアラブ・アンダルシア音楽が、ロトフィ・ブシュナークだったことは、とてもラッキーだったと思います。

来日メンバーは、ブシュナーク氏の片腕とも言われているカーヌーン*2奏者のタウフィーク・ズゴンダヴァイオリンベシール・セルミムニール・ズゴンダチェロアブデルカリーム・ベンハリルータール(レク)*3のムハンマド・マブルーク、そしてウード演奏のロトフィ・ブシュナークという編成でした。

当公演のパンフレットにウード奏者松田嘉子さんがテキストを寄せられていますが、松田さんによると、「アラブ・アンダルシア音楽の遺産であり、北アフリカに伝わるヌーバは「歌と器楽の組曲」と呼ばれるが、実際には歌のパートが主であり、歌を連続して楽しむための仕組みであると言える。そこでの器楽の主な役割は、歌へのスムーズな導入をはたし、歌われた旋律を繰り返し、歌のない部分を埋めることである。」とのこと。
この文章を公演前に読んでいたので、演奏中カーヌーンによって繰り返される歌のメロディーのリフレイン、それから曲と曲の間を縫う(繋ぐ)かのように、次々と繰り広げられるそれぞれの楽器の即興演奏の意味も良く分かり、とても深く演奏を楽しむことができました。

特にバイオリン奏者のべシール・セルミ氏の即興演奏には、魂が奪われる(心ではなく、魂です)ような激しい戦慄を覚えました。もともとヴァイオリンの音色にはいじょ〜に弱い私なんですが、彼の演奏には、泣きのメロディと共に、ジプシー・ヴァイオリンにも通ずるかのような激しさや揺らぎ、そして言葉がかぶってしまいますが、絶妙な即興性を兼ね備えていました。
そして、それらが歌の「おまけ」では決してないことも。
ブシュナーク氏自身、他の演奏家がソロで即興演奏している間、聴衆を演奏家に巧みに惹きつけようとしていましたし、演奏家とアイ・コンタクトを取り微笑み合うという、愛情溢れるシーンも何度も目にしました。

また、これもアラブ音楽の特徴なのでしょうが、西洋のオーケストラ演奏のように全体としてのシンフォニーを楽しむというのではなく、それぞれの楽器のポリフォニックな旋律を耳で追っていくことは、とても刺激的な体験でした。シンフォニックな音楽を聴くことにより体感できる、楽曲が進むにしたがって徐々に訪れる気持ちの高揚・盛り上がりとはまた違った、独特のトランス感とでも言えるような気持ちの高ぶりを身内に感じることは、とても素晴らしい体験でした。
松田さんの言葉を再度引用させて頂きますが、アラブではタラブという概念があり、これは「音楽や歌によって得られる恍惚陶酔の状態」を言うのだそう。このタラブを感じるためには、アラブ音楽にはとても重要な要素である神秘的な詩を理解できるアラビア語力とアラブの古典詩に関する知識も必要となるでしょうけれど、言葉が殆どわからない私でも、タラブのエッセンスを感じ取ることができたように思います。それに時折聞き取れる歌詞は、一見アラブ歌謡の恋愛ものと変わらないように思えるものの、その裏には神秘主義にも通じる深い愛の姿を読み取ることができたように思いました。(もっとアラビア語勉強しなきゃ!)

会場にはチュニジア人と思われるアラブ人の姿も多数見られました。
彼らの存在により、アラブ音楽の聴衆の独特のノリもなんとなく分かりました。
ロトフィ・ブシュナークくらいの人になると、観客も一緒に彼の歌を口ずさめるのだそう。
今回の公演では、一緒に口ずさんでいる人はいませんでしたが、数曲有名な曲(『Nassaya』という曲での盛り上がりが凄かった!)が演奏されると、サビと思われる部分で、手拍子が始まり、サビから間奏と思われる部分になるとピタっと手拍子がやむのです。仕掛け人!のチュニジア人が幸い私のすぐ近くに座っていたので、その様子をつぶさに見ることが出来たのですが、その合いの手の入れ方には独特のルールがあるように思いました。
ブシュナーク氏も、そんな風に会場が盛り上がっている時には、本当に嬉しそうで、演奏、歌唱にも段々と熱がこもって来ているのが手に取るようにわかりました。ブシュナーク氏の歌唱力は、匹敵する人がいないくらいだと思ったものですが、とりわけ、サビに向かって昂揚していくその段階と、高音に達したときの声の抜けが、最高に素晴らしく、彼の声が頂点に達した時、まさに会場全体が彼の声に引っ張られているのを感じることが出来たのです。そんな時は、彼のウードを演奏する手も止まり、右手を高々と掲げて、観客を縄か何かで引っ張り挙げるかのようなパフォーマンスを、おそらく無意識でされているように見えました。
会場と一体となって作り出すのがアラブ音楽のステージだとしたら、ブシュナーク氏はやはり天才なのだなあと、そんな時つよく感じさせられました。

そんな実力も兼ね備えた究極のエンターテイナーのラスト近くを飾ったのは、なんと日本の歌。『ふるさと』と『さくらさくら』。
『ふるさと』では、あのノスタルジックなサビのメロディーをまずヴァイオリンが奏で、ブシュナーク氏の歌唱が始まりますが、最初の「ウサギ追いし〜」の部分を「ヤーバーニー〜(日本人)」と歌い変えていたところが、なんともサービス精神旺盛だなあと。そして『さくらさくら』では、カーヌーンが見事、琴の役割を果たしていてました。アラブ・アンダルシア音楽で和の音色がこんなに忠実に再現されるのか〜と、感動!同時に、聴きなれたメロディーにも関わらず、日本人では絶対出せないようなエキゾチックなオリエンタル色が強く感じられる世界観でした。目の前にハラハラと「極彩色の」花びらが散っていくのが目に浮かぶかのようでしたよ。

時には15分以上に及ぶ長い古典楽曲に陶酔の境地へと導かれ、時にはキャッチーな?ブシュナーク氏作の歌謡に身体を揺らし、時に応じ、即興的なリズムや旋律の変化を楽しみながら進んでいったステージ。何よりブシュナーク氏の人柄を表すかのような優しさに溢れた空気に包まれ、最高の瞬間を共有できたことを幸せに思う。

また、聴きに行きたいなあ。
しかも、チュニジアの碧い空の下で聴けたら最高だなあ。

*1:7世紀ダマスカスを中心としたウマイヤ朝が、宮廷楽士としてペルシア人音楽家を多数受け入れ古代ペルシアの古典音楽を基礎としてアラブ古典音楽を成り立たせていったのに対抗し、スペイン・コルドバを中心にした後ウマイヤ朝で、独自の宮廷音楽を開花させた。
レコンキスタの後は、アンダルシア宮廷音楽はモロッコ・チュニジアなどの北アフリカに渡るが、チュニジアのマアルーフもそのひとつ。チュニジアの場合は地理的に近いこともあり、後にオスマントルコの器楽の影響も大きく受けた。
*2:チター系の撥弦楽器。
*3:シンバル付きタンバリン。

☆当公演主催者である国際交流基金のWebサイト
こちらでブシュナーク氏のプロフィール等見れますので、ぜひ。
http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/news/0602/02-02.html

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カリーマさんの朗読にうっとり。。。
【今日の講演】 アラブの文化と音楽 / 講師:師岡カリーマ・エルサムニー at 河内長野ラブリーホール ...続きを見る
偏愛音楽機構
2006/03/26 21:59

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
うっ!聴いてみたい。ロトフィ・ブシュナーク
この人だったのですねぇ。。。
というのは,たしか先々週土曜日8:00~9:00のNHK FMで,素敵なアラブ音楽が流れ,なにやら26日大阪でライブやるということだけ聴き取れました。んで,詳細は,先週の土曜日,ラジオでということで,聴こうと思うとったのですが,私の住んでるところ,NHK-FM入りにくいのです。とほほ。もう,名前も分からん。しゃーないことにしようかと思うとったら,ellyさんのこの記事。おー,素晴らしい!!が,大阪河内長野は結構遠いかなぁ。ここではジプシー音楽祭りをやったりするので気にはなっとったのですが。チケット取れれば行ってみたいなぁ。
NAKA
URL
2006/03/23 20:03
チケット予約しました。わぉ!
重鎮なのですね。全然知らないもので。
ライブの前に,師岡カリーマさんのセミナー「アラブの文化と音楽」も聴けるし。うはうはです。ところで,ellyさんは,だんなさんとの音楽の趣味はあってるのでしょうか?私の方は,今回は付き合って下さるそうですが,二回目以降は難しいと思います(笑)。
NAKA
2006/03/23 21:43
チケット、早速ゲットされたのですね!
間に合って良かったです。
私も数年前までブシュナークさんのこと知らなかったのですが、チュニジアに行った際、マアルーフで代表的な人は誰かと現地の人に尋ねると、皆彼の名前を挙げたのですよ。それに大御所なのに、若い人にも割と人気があるようでした。
CDは日本ではアマゾンで数枚手に入るだけのようで、私も音源は手元になかったのですが、生で聴くことができ感激でした。
そうそう!大阪の公演ではNAKAさんが大好きな!?カリーマさんの講演もあるな〜と思っていたところでした。
ところで、最後のご質問ですが…、音楽が好きなところは共通点です。ですから、CDの数がすごいことになってます。(NAKAさんとこには全然及ばないと思いますが)
でも、好きなジャンルはほぼ正反対です。ワールドものでなく、普通のロック・ポップスでも、私は基本的にヨーロッパ、彼はアメリカ派ですし。アイリッシュミュージックに関してのみ、けっこう合ってるところもあります。あと、私が好きなラテンロックは気に入ってくれてるものもあります。(以上!)
公演、奥様も気に入られるといいですね!!
elly→NAKAさん
2006/03/23 23:11
おはようございます。チケットゲットと思ったら,当日購入しに行かなきゃならんみたいで。。。ローソンチケット。当然,翌日ローソン行ったら,無効になってました(苦笑)。で,昨日,演奏の行なわれる場所に電話して,ようやくゲットです。まぁ,大阪は全席自由席らしく取れました。結局,一人で聴きに行くことになりました。(その方が気が楽です。)
今回,カリーマさんに会えるという事も,動機としては大きいですね(笑)。
それから,お二人の音楽の好みも教えて下さり,ありがとうございます。アイリッシュつながりとは,なにか素敵ですね。ヨーロッパとアメリカをつなぐ線として,アイリッシュ/ケルト―カントリー路線ってありますもんね。それとはちと違うかな。ラテンロックって,私,サンタナしか知らないんですけど(笑),ellyさんの対象はアルゼンチン・ロックですかね。
NAKA
URL
2006/03/25 04:36
あららら。。。でも結果的に取れてよかったですね。結局お独りだということですが。カリーマさんは私も生で見てみたい、というかお話してみたいです。
音楽の好み、そうそう、NAKAさんがおっしゃるとおりです。カントリーテイストのものが好きな人なので、そことつながるものがアイリッシュだったという。SOLASと言って、私が以前ご紹介したアメリカのアイリッシュ・バンド、ふたりとも好きなバンドのひとつです。
ラテンロックって、書き方が悪かったかも。
フラメンコテイストのスパニッシュロックがメインです。アルゼンチンはテイスト的に自分に合う気がするのですが、経済的にも時間的にもなかなかそこまで手を出せないでいます。ですから残念ながら全く知りません。フラメンコロックの分野でのお気に入りは、そのうち書かせて頂こうと思っていますよ。
elly→NAKAさん
2006/03/25 19:17
カントリーテイスト好みとは渋いですね!いいですねぇ,アイリッシュつながり。うちはかろうじて「ショパン」つながりです。それはいいとして,フラメンコテイストのスパニッシュロックですね!どうもラテン・ロック=サンタナという固定概念がありまして。ははは。
NAKA
URL
2006/03/26 06:54
行ってきました,ブシュナーク氏講演。前半は心地良さの余り忘我の境地へ。後半は氏のエンターティナー力により,よくわからん掛け声と手拍子をしてました。。。情感の強い歌にエネルギーをいただきやした。。。カーヌーン弾いてたおやっさんもいい味出してやした。
NAKA
URL
2006/03/26 19:11
ああ!例の「アイロンかけのジャマにならない音楽」、ショパン関連だった気がします(笑)奥様はクラシック派ですか?
30代でカントリーは、確かにシブいですよね。でも、コテコテのカントリーではないです。あくまでも、カントリーテイストのポップス、ロックです(と、フォローしておいたりして)サンタナも素直に好きです。
ところで、ブシュナーク公演、おかえりなさ〜い!やっぱりエンターテイナーですよね!カーヌーンのズゴンダ氏も、すごかったです!ブシュナークさんとふたりのアイコンタクトが激しかったのが印象に残ってます(笑)。
で、TB&こちらの記事へのリンクまでしていただきありがとうございます。恐縮ですわ。
elly→NAKAさん
2006/03/26 23:57
「بوشناق」で検索してて流れ着きました。
自分もルトフィー・ブーシュナーク好きです、ホント良い声してますよね。
仕事で行けなかったので、コンサートの話も羨ましい限りです(次回こそは!)。

あ、ちなみに彼の名前のアラビア語の綴りなんですが、正しくは“لطفي”だと思います。
(いきなりのコメントでこんなこと書くのも失礼かと思いますが、どうかご容赦を。)
アラブ音楽ファン
2006/04/25 01:36
うひゃ!…って、突然ヘンな声を出してしまいすみません。本当ですね、綴りが間違っている!よくこういううっかり&初歩的なミスをしてしまう天然キャラなのですよ。ご指摘本当に助かります。教えて頂かなければずっとこのままでしたよ、きっと。早速直しておきました。
ルトゥフをありがとうございました!(←ヘンナ日本語)
コンサート行かれなくて残念でしたよね…。
彼の美しく力強い声を生で聴けたことは本当に良い経験でした。
またこれからもアラブ音楽のミュージシャンをじゃんじゃん招聘してほしいものです。
elly→アラブ音楽ファンさん
2006/04/25 22:11

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