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zoom RSS マグレブ発アラビアン・フォーク〜Souad Massi〜

<<   作成日時 : 2006/03/01 22:06   >>

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画像
『deb』(2003年)
Souad Massiسعاد ماسي

1.ya kelbi(我が心よ)
2.ghir enta(あなただけを愛して)
3.ech edani(愛するんじゃなかった)
4.yemma(ママに嘘を)
5.yawlidi(愛しの少年)
6.le bien et le mal(善と悪)
7.houria(自由)
8.deb(デブ・ハート・ブロークン)
9.moudja(波)
10.passe le temps(流れゆく時)
11.theghri(S.O.S.)
12.bel el madhi(過去の門)

当CDは、アルジェリア出身の女性シンガー、souad massiの2nd.アルバム。発売は03年とTopに書きましたが、日本ではオフィス・サンビーニャが輸入版に帯と解説をつける形では発売していたものの、オリジナルのイギリス、Wrasse Recordsライス・レコードの名義で国内発売をする形になったのは去年の暮れ。同じ05年11月に彼女の3rd.アルバム『mesk elil』が日本国内発売されヒットしたのをきっかけに、以前のアルバムもオフィス・サンビーニャより急遽追加発売されたという形のようです。

私も先に手に取ったのは3rd.アルバム。『mesk elil』で、彼女の声と紡ぎだすメロディーに恋をし、これはなんとしても以前のアルバムも聴かなきゃと思っていたところの1st.2nd.の発売だったので、飛び上がって喜びました。

ジャケットを見ると分かるとおり、スアドは華奢で美しい女性。

彼女がデビューするきっかけとなったのは、1999年にパリで催された『アルジェリア女性のフェスティヴァル』でパフォーマンスを行い、「あまりに衝撃的な」彼女の演奏を見ていたフランス、アイランド・レコードの関係者がすぐさま契約を交わした(後にイギリスのライスレコード社もライセンスを取得)、とライナーには書かれています。「あまりにも衝撃的な」演奏とは、どういったものなんだろう。。。ジャケットに現れているよう、彼女のスタイルはフォークギターを抱えての弾き語り。ゆえに「アフリカ初の真のフォークシンガー」などという枕詞がついてしまったのだろうけれど、彼女のギター演奏は、CDを聴く限りではむしろ大人しいというか、あくまでも彼女の思いを切々と唱える歌詞が乗った歌を引き立てるための伴奏という印象が強い。だからと言って決して地味な演奏ではないのだけれど。「衝撃的」=「派手」とはならないにしろ、通常、衝撃的と言う場合、私の中ではフラメンコギターのような激しいものを想像してしまうのです。彼女の演奏は美しいアルペジオが印象的であることと、即興的なものもあるけれど、どちらかというと確実に正確に音符を辿っていくタイプのものに聴こえるのです。ゆえに、衝撃的と称される理由はなんなのだろう、それは実際彼女が演奏する姿を見てみないとわからない彼女のオーラやカリスマ性のようなものなのかもしれないな、と思った次第。

ライナーやWebサイトに書かれている、彼女がデビューするまでに辿った音楽遍歴の中で、印象的なものとしてフラメンコが挙げられると思います。印象的というのは、意外性があったから。以前ご紹介したINESS MEZEL同様、アルジェリアのベルベル人の一部族、カビール族出身の彼女は、家族全員がミュージシャンという恵まれた音楽環境の中で育ったようで、勿論彼女の中には伝統的なベルベルの音楽やアルジェリア大衆音楽の素地もあったことでしょうし、それにあきたらず、クラシック音楽やフラメンコの世界へも自ら入っていったということです。一時期フラメンコ音楽のグループでの活動もしていたとのこと。そちらではあまり成功を収めなかったようですが。

3枚のアルバムを聴いた中で、それぞれ素晴らしいアルバムだったにも関わらず、私が2nd.を最初に持ってきたのは、彼女の音楽遍歴を証明するかのように、フラメンコ色が最も強いアルバムだったから(私がフラメンコ好きというのも理由のひとつですけど)。とは言っても明らかにフラメンコ色を前面に押し出した楽曲は全12曲中、2曲のみです。

フラメンコグループで活動した後の彼女は、政治・社会問題をテーマにしたロック・グループに参加し、アルジェリア国内で人気を博したようですが、それゆえにイスラーム原理主義勢力や政府の攻撃対象となり、国内での活動が難しくなって、結果、音楽活動が行き詰ったというのがいきさつのようです。アルジェリア国内でのカビール族弾圧の話は以前も少し書きましたが、カビール族はアルジェリア独立後に、反政府活動を行う中心となったり、ベルベルの言語や文化を認めさせるよう政府に積極的に働きかけたゆえに弾圧を受けました。その中には音楽家も多く含まれていたのです。彼女もメッセージ性の強い音楽をやっていたゆえに、政府やイスラーム原理主義者の弾圧や攻撃の対象となってしまったのでしょう。でも、彼女の思いは、フランスで活動するようになった現在でも、強く楽曲に現れていると感じます。


以下、収録された楽曲について簡単に書いていきたいのですが、田中昌さんのライナーノーツがあまりにも詳しく書かれているので、殆どがその記述とダブってしまう可能性があります。その点ご了承ください。でも、一曲一曲が私にとってはいとおしいというか、大切にかみ締めて聴きたいと思えるのですよ。

ギターソロとチェロの物悲しい演奏で始まる1。ギターのフレーズにはところどころフラメンコ色も窺われるよう。バックに静かに聴こえるダルブッカの演奏が効いています。アルゼンチンタンゴを思わせるメロディーの2はウードのソロ演奏から始まります。サビでSouadの歌を追う形で入るウードと、間奏のアラビックな響きのヴァイオリンの音色がとっても印象的です。フラメンコギターとカンテで始まる3では、Souadはかなりアグレッシブなギター伴奏を聴かせてくれます。フラメンコギターはクレジットを見るとDaniel Manzanaという人が担当しているよう。フラメンコギターが主旋律をとり、Souadのフォークギターが伴奏をとるという形。時折、フラメンコギターとウードのスリリングな掛け合いが入るのがとっても魅力的で聴き応えあり。打って変わって、4はギターのアルペジオが美しい静かな曲。どこかしら、ギリシア的な旋律も感じさせてくれます。途中からダルブッカとウード、ヴァイオリンの演奏も加わり、オリエンタルな色が強まり、終盤にしたがって盛り上がりを見せていきます。INESS MEZELの曲にも見られたような、特にリズムの組み立てにベルベル色が強く現れた軽快で明るい5は、Souadの歌い方も、子音の多いアラビア語の特徴が生きた、つんのめるような表現方法でおもしろい。合いの手的に入るコーラスも効いていて、中盤からは珍しく、エレキギターとドラムスも入ってきて、当アルバム中、最もロック色の強いつくりとなっています。最もSouadらしいのでは?と、私が感じた6は、フォーク色の強い曲。静かなギターと弦楽器の演奏と共に丁寧に綴られる彼女の人生観を歌ったかのような歌詞が印象的。アンダルシアの風景を思い出させるフラメンコギター・ソロから始まる7。途中からパルマ(手拍子)も入り、フラメンコギター2本のみの伴奏という典型的なフラメンコ曲となっています。硬質な音つくりに対比するかのようにSouadの歌は終始柔らかい。インド的なものを大胆に取り入れたのではないかと思われる表題曲の8。イントロは、プログラミングされた鳥のさえずりと、インド古典音楽で聴かれるような激しく上下する唄法(『テケテケテケテケ…』とでも言っているように聴こえるあの唄法、なんと呼ぶんですかね??)の男性コーラスから入っていき、そのコーラスに被さるように、ギターとタブラの音がフェイド・インして来ます。タブラの音が終始響き、よく聞き取れないけれど、インド系の弦楽器も使われているように思いました。なかなかおもしろいし、地中海色の強い彼女の楽曲の中では、実験的な曲なんだろうなと思いましたよ。バックに微かに波音のSEが聞こえる穏やかな曲の9。タイトルの『moudja(أمواج波)』どおり、ギターのアルペジオが、波の退いては寄せる様子をうまく表現していると思いました。ラストに入るオルゴール音もかわいらしいです。再びフォーク色の強い10は、本アルバム中唯一のフランス語による楽曲。6も、タイトルはフランス語であるにも関わらず、詞はアラビア語。フランス語で歌った途端、シャンソンっぽくなってしまうのは何故?フルート演奏が取り入れられた曲ですが、ケルトっぽいメロディーだとさえ思われました。これまたフルートが印象的な11。歌詞の内容は、もと来た道を見失い故郷を居場所を失ったというか、そういった悲しい内容。その悲しげなメッセージを強調するかのような、故郷を思い出させるかのような、どこか懐かしい音色のフルート。う〜ん、やっぱりケルトを感じるなあ、気のせいだろうけど。後半から入るパーカッションとアフリカン・フルートの音色が印象的な12。間奏ではフルートに合わせ、アフリカ的な合いの手コーラスも入っています。フルートの音色は終盤に近づくにつれ段々盛り上がりを見せます。

以上、ざっとですが全曲レヴューを書きました。

こうやって、アルバム全体を見て感じるのは、メジャー調の曲にしろマイナー調の曲にしろ、背景に拭いがたいメランコリーと、ヨーロッパ的な湿った音があるということ。それには、帰れぬ祖国アルジェリアへの悲痛な想いも込められているからでしょう。そして、その点が妙に私のツボにはまったということです。Souadの声も、アラブ歌謡的というより、むしろヨーロッパ的な湿り気と哀愁を帯びているように思います。だから、ワールドミュージック好きの人には広く受け入れられても、アラブ歌謡好きの人には異端的というか、物足りないというか、ちょっと違う、と映るのではないかしら?と思いました。

あと、「フォーク・シンガー・ソングライター」という枠組みには収まりきらない楽曲の多様性は、3枚目のアルバムではさらに加速度的に増しています。3枚目の松山晋也さんのライナーによると、最近、サリフ・ケイタにはまっているという彼女の音は、アラブ・ベルベル・地中海的なものに加え、アフロ的なものも積極的に取り入れている姿勢が窺えるということで、今後もとても楽しみです。ヨーロッパではかなりの人気シンガーのようですから、これからも彼女のアルバムが日本でも紹介され続ける可能性は高いでしょう。

あと、余談ですが、このアルバム、実はピーター・バラカン氏の昨年のベスト10にも挙げられていたのですね〜(桜丘町音樂夜噺第一夜を参照してください。)

http://souadmassi.artistes.universalmusic.fr/

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
アルジェリア!!!
一瞬、、というか暫くどこだったけ??と
考えてしまいました。
でも、こういう弾圧や迫害の中でこそ
芸術活動って強く出てこられるのかも
しれませんね。画家でも精神病の
人が多かったりとか、何かと秀でるためには
自分を抑制される・させられた何かが
あった方が 秘めていた、奥の何かが
出てくるのかもしれない・・・・

★NHK 見たかった〜〜〜
ドラキュラ伝説、ちょっと番組サイトが
あるか調べてみます。
今噂のヒストリアン、頑張って読んでますよ。
go2rumania
URL
2006/03/03 01:00
こういう長い記事を読んでいただいて恐縮です。
弾圧や抑圧があってこそ生まれる芸術は確かに存在すると思いますし、自分の内面や心の深層の部分を見つめる人こそ芸術家にはふさわしいでしょうから、結果、アーティストには精神を病んでしまう人が多いのも現実だと思います。
go2rumaniaさんがおっしゃるよう、有名な画家にはその傾向が顕著に見られますよね。
ただ、そういう内的な心の探検、ならびに病巣、あるいは外的な弾圧などから這い上がり、それを芸術や表現活動として昇華させることができる人は、その中のほんの一握りなんだろうなと強く感じます。大部分の人は苦しみを形にしようと試みてはみるものの、どん底の状態から這い上がれずに精神を磨耗させるだけに終わってしまう。一般的にはやはり前向きであったり、エネルギーがあり精神が健康な人の方が何事においてもも大成するのではと私は思います。(続く)
elly→go2rumaniaさん
2006/03/04 23:02
NHKの特集、もしよろしければ、DVDに焼いてさしあげるという形をとっても構いません。(ご連絡を取るのが可能であれば。そして、それが構わないようでしたら。)
ヒストリアン、内容を知らなかったのでアマゾンで検索してみました。これは、おもしろそうですね!ルーマニアを舞台としたものって、そんなに多くないですし。私も読んでみたいと思います。ご紹介ありがとうございます。
elly→go2rumaniaさん
2006/03/04 23:03
ellyさんの記事で紹介されるものはCDに限らず、旅行やレストラン、映画でも、読んだ直後には興味をそそられることがとても多いです。
このSouad massi然り。以前からチェックしたまんまで聴いていなかったのですがフラメンコをはじめ、タンゴやインド古典、シャンソン、ケルトなどの要素も含まれていると知り、再チェックしました。予想以上に表現の幅が広くコスモポリタンな人なんですね。必ず買おうと決めました。(笑)
questao
URL
2006/03/06 02:24
ありがとうございます。読んで興味を持っていただけるのなら、そんなに嬉しいことはありません。文章が長くてくどいので、ちゃんと読んでいただいてる方には申し訳なく思います。もうちょっと要領よく文章書けるようになりたいですね。
Souad Massiですが、タンゴ(ラテン調の曲)、インド古典(タブラが使われてる曲)、ケルト(アフリカンフルートのメロディ)に関しては、あくまで私の勝手な思い込みというか感想なので。。。ちなみにライナーにも彼女のwebサイトなどにも一切そういう風には書かれていませんので。もしquestaoさんがお聴きになるようでしたら、感想お聞かせください。書いてあること全然違うじゃないか〜!とか怒られるかもしれませんが。
elly→questaoさん
2006/03/06 20:50

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