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zoom RSS 『VENGO』 フラメンコ音楽に聴くジプシー

<<   作成日時 : 2005/09/28 16:10   >>

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この間、ジプシー音楽のことを書いた時に、トニー・ガトリフ監督の映画に触れました。今回はガトリフの別の作品、『VENGO』(2000年)のことを書きたいと思います。とは言っても、映画のストーリーについてではなく、音楽について。『VENGO』をここで取り上げるのは、今さらな感がありますが、とにかく大好きな映画なのでご了承を。

この映画の舞台はスペイン・アンダルシア。よって、音楽はフラメンコが中心となっています。

そもそも、フラメンコとは、どのように成り立っていった音楽なのか・・・。ひと言でいうのは簡単ではないようですが、8世紀イベリア半島にまで達したイスラーム勢力に伴い、北アフリカムーア人のみならず、北アフリカ土着のベルベル人もスペインに入ってくることになります。中世のイスラーム文化といえば、当時最先端。東方のイスラームの地でも華麗な文化の華を咲かせますが、スペイン・アンダルシアにおいても例外ではありません。土着のアンダルシアの文化、イスラームの文化、ベルベル人の文化のミクスチャーだけでもすごいのに、15世紀に入ると、新たにこの地にはジプシーと呼ばれる人たちが長い漂流の末にやってきます。
ジプシーは、インド北西部を10世紀に旅立ってから(もっと前と見る学者も.。余談になりますが、11世紀イランの叙事詩『シャー・ナーメ(王書)』に、以下のような記述があります。5世紀ササン朝ペルシア時代の王、バフラーム・グール王が、インド(おそらく現在のアフガニスタン)から、リュートを演奏する楽師として、「ルリ」を呼び寄せた、というもの。このルリこそが、ジプシーに他ならないのです。そして、何故彼らが、生涯流浪の身でいなければいけなくなったかの理由付けとも取れる記述も、『王書』の当該箇所にあるのです。勿論これは伝説の域にすぎないのですが、大変興味深い記述だと言えると思います。)、ペルシアトルコの地を通り、バルカン半島からは北のヨーロッパを通って西に向かう流れと、南のエジプトを通って西に向かう流れに分かれたと考えられています。そして、ユーラシア大陸の西の果てイベリア半島で合流し、この地で、アンダルシア文化、イスラーム(サラセン)文化と交わりました。その交流と混淆の結果生まれたのが、総合芸術としてのフラメンコと考えられています。ジプシーの音楽には、流浪してきたそれぞれの地の記憶が宿っています。そして、また、新たな文化と西の果てで出会い生み出されたフラメンコはジプシーの持つ音楽の中でも集大成的なものと言えるのではないでしょうか?

ちなみに、ジプシーの呼称は国によって様々です。ロマは人間を意味する、ロマニー語ロムの複数形ですが、これが中東では、ドムという発音になり、ルーマニアではギリシア語アツィンガノイ(アンタッチャブル)に由来するツィガン、ドイツではツィゴイネル・ワイゼンで有名なよう、ツィゴイナー、他のヨーロッパ諸国でもこれに似た名称が多いようですが、スペイン語では「エジプシャン」(エジプトから来た)に基づいたgitano(ヒターノ)が使われています。また、マヌーシュ(ジプシー)・ジャズのマヌーシュも人間の意のようですが、古代インドのサンスクリット語で、人間のことをマヌ(一神教のアダムに当たる人物、つまり最初の人間を、ヒンドゥー教でマヌと言います。『マヌの法典』が有名ですね。)と言いますので、ここにもインドとのつながりが見出せると思います。

ところで、フラメンコ音楽と言えば、フラメンコ・ギターを真っ先に思い浮かべますよね?私にとっても、フラメンコ・ギターは、あらゆる音楽ジャンルの中で、最も愛すべきものです。ですが、フラメンコにとって、ギターは本来まったくかかわりのないものだそう。ジプシーの音楽にギターが使われたことはなかったのだそうです。おそらく20世紀に入って、ガジョ(よそ者)の楽器をジプシーが取り入れたのだということです。

本題からずれて、だいぶ長々と書いてしまいましたが、『VENGO』の導入部で流れるFLAMENCO SOUFIでは、フラメンコ・ギターのTOMATITOスーフィー(イスラーム神秘主義)楽団の詠い手(といっていいかどうか・・)SHEIKH AL TUNIが競演しています。映像ではグアディアーナ川沿いの邸宅のような場所のバルコニーで、演奏をしています。映画の導入部から、いきなり音楽で惹きつけていこうとします。アラビックな響きのTOMATITOのギターに、バイオリンのアラブ風の旋律が加わり、ネイ(葦笛)、更にウード(西洋楽器リュートの原型)ダルブッカ(太鼓)といったアラブの楽器が被さって行き、恍惚境に入って朗誦するAL TUNIの声が重なります。映像では、トランス状態でサマー(旋回:トルコメブラーナ教団の舞が有名ですよね)を行う女性が映し出されます。このシーン、そしてフラメンコとスーフィーの音楽の鮮烈な出会い程、私に戦慄を覚えさせた音楽は今までにそうそうありません。それは、サントラ盤を何度聴いても変わりません。未だに鳥肌が立ってくるし、鼓動が早くなります。私が憧れる文化の融合が8分半ほどの音の中に凝縮して表現されています。

そして、主題歌とも言えるNACI EN ALAMO(私はアラモで生まれた)。東欧のジプシーの歌謡に聴かれるような悲哀に満ちた歌声と、それを彩るネイとフラメンコ・ギター。「私には(思い出の)風景(paisaje)もないし、故郷(patria)もない」と。この曲は当時若干17才のレメディオス・シルバ・ピサが歌っていますが、そんなうら若い女性が歌っているとは思えない人生のワビサビを感じさせます。

MECANIQUE GARAGEというインスト曲は、サントラのライナーノーツによると、マルティーネという鍛冶屋が鎚を打つときのリズムを、車のエンジン音で表現したものだそう。
ジプシーは住み着いた地域地域で特有の仕事を担ってきました。その中には鍛冶屋も多く含まれます。アンダルシア、グラナダを訪れた際、ヒターノが多く住むサクロモンテ地区タブラオ(フラメンコショーを見せる洞窟状のバー)の壁には、装飾品として鍋やフライパンが飾られているのを多数目にしました。この地では金属加工がヒターノの生業のひとつだということを、その時知りました。そういった生活、生業をも芸術として昇華させたところが、いかにもフラメンコ的といえるでしょう。

他にもGRITOS DE GUERRAなど有名アーティストも参加していますし、聴きどころ満載、見所満載の映画です。

アンダルシア、特にグラナダは、私が世界中で最も愛する土地のひとつです。7年ほど前に一週間ほどグラナダに滞在し、タブラオやジャズ・フラメンコバーに通い詰めました。また、ヒターノの生活を覗き見たいと、サクロ・モンテの丘に幾度も登りました。そして、アラブ文化の名残を、街中にのこる数々の遺跡に捜し求めました。夕暮れに浮かび上がるアルハンブラ宮殿、夕焼けに赤く染まるアルバイシン地区の白い町並み(アルハンブラで働く女性が「アルハンブラで見る夕焼けはいつも美しいのよ」と言いました)、そしてそこで耳にした音楽を脳裏に蘇らせることは、至福の瞬間を与えてくれると同時に、過ぎ去った過去へのどうしようもない憧憬の念に私を駆り立てます。

最後に、ジプシーとその音楽に関し、参考図書として関口義人さん著、『ロマ・素描』(東京書籍:2003年)を挙げておきます。文章はとても読みやすいのに、かなり専門的なことまで書かれているし、きちんとしたフィールドワークに基づいて書かれていて、かなり参考になりました。CDの紹介もあります。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
疑問を持って調べれば、「何事もいろんな背景を持っている」という見本のよう。フラメンコについて、何も考えてみたことがないけれど、指摘されれば「なるほどねえ」。これからも、目からウロコを期待しています。
 嵯峨天皇の件は、『日本後紀』弘仁6年です。
筑紫万葉
2005/09/28 20:09
ありがとうございます。最高のほめ言葉です。ブログ版トリビア?目指します。ところで、お茶の件、『日本後紀』なんですね。世界で一番文献を残しているのは漢民族だと思っていましたが、日本人もけっこうちまちまと残しているんですね。
elly
2005/09/29 18:26
先ほどは、私のブログに訪問&コメント、ありがとうござました。VENGOのラストでは、機械のピストン運動の、グワッシャーン、グワッシャーンという大音響が鳴り響き、その音のサンプリングによって、一定のビートを刻み、音楽になっていく、という使い方をしてますね。

ほんとに音に執着してる監督だなぁ、と思ったものです。

トマティーとは、ミッシェル・カミロとのデュオでライブを観ていますが、いいギタリストですね。
tabasco
2005/09/29 19:51
tabascoさん、早速ご訪問ありがとうございます。トマティートは大好きなギタリストです。映画の中でもそうでしたが、ライヴ中も笑顔なのがなんともステキだし。フラメンコギターだと眉間に皺寄せているイメージがあるのに。。。
elly
2005/09/29 21:13
ellyさん、こんにちは。TOPの画像はどこの写真ですか?とってもキレイ!
ellyさんのブログはやっぱり奥が深い!読んでいて、私には難しいこともありますが、なるほどー、と感動してしまいます。ブログだけではもったいない気がします♪もっと世の人に読んでもらいたいな。
hoaloha
2005/09/30 10:32
ellyさん、再びこんにちは〜。私のブログのBookmarkにellyさんのブログを登録させて頂きました。もし、掲載しない方がいいようならご連絡くださいね。コメントもありがとうございました。マサヨシ、いい歌うたいますよね。泣けてきます。。
hoaloha
2005/09/30 10:46
hoalohaさん、嬉しいお言葉ありがとうございます。更新のペースは遅いと思いますが、これからもよろしくお願いします。写真はチュニジア南部のタタウィンというところ(スターウォーズの撮影地にもなった)の近くにあるクサール・ウレド・スルタンというところです。クサールとはチュニジアで穀物倉庫のことを指します。ついでにクサールはキャッスルの語源です。旅写真もすこしづつ紹介していけたらなと思います。Bookmarkしていただきありがとう♪こちらもさせていただきます!hoalohaさんも旅好きで、旅の美しい写真を掲載されてます。
elly
2005/09/30 21:04
おはようございます。どうもellyさんの記事中の,キーワードが私の潜在意識にすりこまれ,それをベースに記事を書いているようですね,
私が。え〜と,なんと言えばいいのか。。。
情報提供ありがとうございます。
NAKA
2005/10/02 07:24

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